People Powered 遠くへ行きたければ、みんなで行け ~人間の本性から考えるコミュニティ設計~
本書の要約の前に長々と、だけど重要だと思う観点を述べる
遠くへ行きたければ、みんなで行け
これはアフリカの諺だそう。この言葉が人間の本性を表していることは、フランスの思想家のルソーの社会契約論からもわかる。
社会契約論を加味した上で、アフリカのことわざをより現代風に言い換えると
高度な欲求を充足させたければ、社会性を発達させろ
ということになる。欲求が「生存すること」だけにフォーカスしている場合は最低限の社会性で成り立つかもしれない。もしくは、自然界において自立した個体であれば(狩りの能力があれば)社会性は必要ないのかもしれない。
一方で人間は承認欲求や自己実現欲求が出てきてしまっているがために、それらの欲求を充足させるために(幸福の追求をするために)、個人同士が協力関係を結ぶための性質(社会性)を発達させていく必要性が出てきた。
整理すると、より高度な欲求を満たすために個々人間の協力関係(チームや社会やコミュニティ)というものが必要になってきて、その維持のために社会性が必要という流れだろう。
本書では序盤にコミュニティを作る上で重要な観点について述べられていた。
この「人間の心理」と、「人間同士がどう関わるか」(要するに人間の本性)は先ほど載せたルソーの社会契約論の意訳をベースに説明ができると考える。
人間の本性の観点から定義する良いコミュニティとは?
協力関係を簡単に結べる(合意形成コストが低い)コミュニティ
=> だから価値観が一致している方が良いよね
個人の可能性(幸福の追求)を最大化できるコミュニティ
=> だから目的が一致している方がいいよね
上記2点が満たされ続けるコミュニティ
=> だから変動性や流動性や多様性、コミュニティへのアクセシビリティも意識しないとだよね
気をつけなければいけないのは「合意できた風」
「自分の幸福の追求」(以降は自然人とする)と「社会性に基づく行動」(以降は社会人とする)のバランスが保たれていない状態では人間はストレスが溜まる。現代人がストレスフルなのは、自然人と社会人のバランスがうまく取れていないからである。
「合意できた風」に気をつけなければならない理由は認知と行動実態は絶対に乖離してしまうからである。人間が持てる限り理性を駆動させたとしてもこの認知と行動実態は乖離してしまう。よって、バランスをとることが難しくなる。
②は「自己認知的には自分のための行動」のつもりだけど、「深層心理的には社会性をベースにした振る舞いになっている」というケース。
自分にとって自然じゃないけど「このくらいなら許せる」と自分の認知を書き換えているため、自然人と社会人のバランスが取れなくなり、その個人にとってストレスフルなコミュニティという認識になっていく。
自分の中で自然人と社会人が正しいバランスになるような合意点を見つけるには、自分自身に対する「誠実さ」が重要になってくる。
人間が誠実さを獲得するためには、自分の立場が認められている場合(心理的安全性が確保されている状態)である。これはコミュニティ設計でもアプローチできるし、メンバー自身が主体的な貢献によって地位を確立していくというアプローチもできる。
③は「自己認知的には社会性をベースにした振る舞い」のつもりだけど、「他人から見たときに、自分のことだけしか考えていない行動」に見えてしまうケース。
この場合、実態として合意通りに物事が進んでおらず、徐々に周りからの支援が得られなくなってくるので、その個人にとってストレスフルなコミュニティという認識になる。
このケースを解決するには、コミュニケーションが重要である。どんな貢献をしてほしいかをちゃんと共有したり、客観的なフィードバックが必要である。オンボーディングや日々のコミュニケーションを通してメンバー正しくenablingする必要がある。
少し話が逸れるけど、コミュニティだけではなく恋愛も結婚も会社も全て合意形成だよという話
「人間の本性の観点から定義する良いコミュニティとは?」であげた3つの特徴は、コミュニティだけに当てはまるものではなく、恋愛や結婚、家族、会社など、他者と接点を持つ事柄の全て当てはまるものである。
協力関係を簡単に結べる(合意形成コストが低い)
個人の可能性(幸福の追求)を最大化できる
上記2点が満たされ続ける
要するに自分の幸福度を最大化するためには、「誰と組めば合意形成コストを最小化しつつ、自分の可能性を最大化できるのかのか。そしてその状態が持続可能かどうか。」をしっかりと検討する必要がある。
例えば、パートナー選びの際にも、「目的が一致していること」、「価値観が一致していること」に加えて、合意形成状態(お付き合い)の持続性のために、「目的や価値観が変動しても対応できる能力(レジリエンスとか柔軟性)があること」も重要になってくるだろう。
また、「合意できた風」という落とし穴を避けるために、「誠実であること」や「対等に話し合えること」という性質は重要視した方が良さそうに思える。これらの性質がなければ、合意形成状態(お付き合い)は容易に限界(破棄)を迎えるだろう。
ここからは要約パート
本書は合意形成コストを人間にとって自然な形で最小化するためのHowが書かれた本
本書は人間の本性を根底に置いている点が非常に有用です。表面的なコミュニティ設計のHow to本ではないと感じました。
本書が解こうとしている問題を一言で言えば、
メンバーが「自然人」と「社会人」のバランスを自然と保つことができるコミュニティをどうやって設計するのか?
です。気になる方はぜひ本記事の後半も読んでみてください。
コミュニティの設計手法「ベーコンメソッド」
大義(Mission)と価値(Value)を作る
自分のコミュニティでのエンゲージメントモデルを選ぶ
君自身が提供したい価値をきちんと言葉にする
ビッグロックス、確固たる塊を作ろう
オーディエンスを知り、理想のオーディエンス・ペルソナを構築しよう
導入路とエンゲージメント・モデルを設計する
四半期実施計画を立てる
成熟した状態や成功を測る指標を創造する
ケイデンス(律動)を実施する。何度も繰り返して組織に筋肉を作っていく
自分のインセンティブマップを作成する
3つのコミュニティモデル「コンシューマー・支援者・コラボレーター」
作ろうとしているコミュニティの目的に応じてモデルを選ぶ。
コンシューマー
共通の趣味を持つ人を集めたコミュニティで目的は共通の関心ごとを中心に議論を交わすこと。
設計において大事なことは、関心ごとの専門化である。参加の方法はシンプルで議論トピックに関心があること。参加者の能力評価は、議論に加わることで生まれる他者からの評価になる。
支援者
コンシューマー・コミュニティの進化バージョン。メンバーの成功を支援するために積極的に働こうとするメンバーが出てくる。メンバーがどうやったら議論に参加できるようになるかとか、メンバーがどうやったらより知識を獲得できるようになるかとか、より高度化した目的が出てくる。
コラボレーター
支援者コミュニティの進化バージョン。目的は共有されたプロジェクトのためのチームとして能動的に共同作業をする。より大きな目標を達成すること。コミュニティとしての複雑性が高く設計も難しい。
コラボレーターコミュニティの設計では、効果的に協力できるように誰もが最高のパフォーマンスを発揮できるようなカルチャーを構築する必要がある。他にも仕組み的な部分で言えば、ピアレビューのプロセス、平等な機会と公平な競争など様々な要素を考えて設計する必要がある。
コミュニティ設計の注意点
コミュニティのミッションステートメントは短く、記憶に残りやすく、いつでもぱっと書き出せるくらいにする。
ミッションはシャープで的を絞ったものにする。小さく始めて価値のある資産を築き上げていく。
期待と文化的規範をはっきりさせておく
続けられる形で始める
人間関係と信頼、関係作りにフォーカスする
コミュニティの運用
コミュニティ設計・初期メンバー集めが終わったら、次はコミュニティを運用していくことになる。初期の設計がうまくいかなかったり、拡大に応じて変えなければいけないことが出てくる。そういった運用では以下の問いを立てながらコミュニティを改善していく。
読書感想文
ソーシャルキャピタルという指標を可視化したら良さそう
繰り返し共有コミュニティに価値を提供し続けることで目に見えない貯金ができる。それがソーシャルキャピタル。これはコミュニティの重要な通貨になる。ソーシャルキャピタルを可視化したら良さそう。
現実的に集約できるリソース駆動で考える
要約で紹介したのはミッションから考えるトップダウン的な方法を紹介した。手法に対する検討を深めるために、それとは対照的な実現可能性から考えるボトムアップな方法も挙げてみる。
それが、自分が集約できるリソース駆動で考えることだ。
例えば自分がフリーランスエンジニアだった場合に、価値観や目的、今抱えている課題間などが近いのはやはりフリーランスエンジニアだろう。そうなると、コミュニティを作ったとして集めやすいのはフリーランスエンジニアだ。そしてそのフリーランスエンジニアが集まった場合に、ある知識リソースの集約ができる。
例えば、それぞれが持ち寄ったIT技術に関する知識が集約できるだろう。もしくは、見積もりや値段交渉といった共通の課題感に関する知識リソースも集約しやすい。
集約したリソースで何ができるかを考える
集約したリソースで何ができるかを考える。これはコミュニティの出口戦略でもあるし、最終的なミッションともつながるような部分。
例えば見積もりや値段交渉といったフリーランスエンジニアだったら誰でも課題感を持っているようなトピックに対するナレッジが集約できた場合に、フリーランスエンジニア向けの交渉術コンサルみたいなことができるようになるかもしれない。
そうなるとお金というリソースを獲得できるようになってくるかもしれない。集約したリソースを元手にさらなるリソースの集約ができるようになってくる。
ちなみにこれは後で考えるでも良い。一定以上のリソースを集約できた場合どうにでもできる気がする。
戦略的にやるとしたら「集約した場合に価値が最大化するリソースは何か?」を考えたい
個人的には、コミュニティを作る意義を内部に閉じたくない(メンバーだけに利益がある状態にしたくない)ので、集めたリソースで社会に何ができるかは考えたい。
その場合、他のコミュニティが集約しているようなリソースを集約しても、社会から見た価値はそこまで高くならないので、他の人が集約できなかったリソースを集約するみたいなことをやりたい。
ポジショニング戦略的には、誰も目をつけていないようなリソースに目をつけてやってみたい。そのリソース集めてどうすんねんみたいなものに目をつけてやるのがワクワクする。
イメージは株式会社COTENのような感じ。どうなるかわからないけど「人文知」という知識リソースを集約して、その後どうにかしている感じ。
ルソーが考える人間の本性をベースにコミュニティ設計を考える
自分にとって自然な振る舞い(自分にとっての幸福の追求は何か?)
自分の幸福の追求の障害になっている事象を解決するためにどんなコミットメントを求めているのか?
自分に求められるコミットメントを提供することは、自分にとっての自然な振る舞いからどれくらいかけ離れてしまっているか
何だったらお互いに合意できる(契約を結べる)のか
この辺りは理性を駆動して思考できる(自分をしっかりメタ認知できる)ことを前提としているので現実的には難しいと思う。でもコミュニティ設計ミスによるエラー(自然人と社会人のバランスが取れなくなってストレスフルになる状況)は想定できるので、「こういうエラーは想定されますよね。だからもし発生したらコミュニケーションで解決しましょう」みたいにメンバー間で合意しておくと運用でカバーできそう。
コミュニティのビジョンの決め方について
集まる人ベースで考える場合
合意点がコミュニティのビジョンになるパターン。合意形成コストが最小のところで決まる。メンバーがどれだけ理性を駆動できるか(社会善を掲げられるか)がビジョンの質に影響を与える。
集まる人ベースで考えない場合
自分のビジョンを押し出していくパターン。決定時には合意形成は必要ないが人を集める際に合意形成が必要になる。自分の能力にビジョンの質が影響を受ける。
最後に
本記事で載せた要約は本書の内容から比べるとかなり劣化版になってしまっています。実際の内容はもっとすごいのでぜひ読んでみてください。